「弘文堂のホームページでウェブ連載をしませんか?」
と言われたかどうかはよく覚えていないのだが、とにかく、弘文堂の若手敏腕編集者こと登健太郎さんからウェブ連載の執筆のお誘いを受けたのは、今から1年前の2015年4月のことであった。当時すでに話題となっていた「タイムリープカフェ」の後番組ということで、連載開始予定は1年後との由。3か月後のことでさえ見通しのきかない私にとって、1年後などは永遠にやってこない未来に等しい。というわけで、何の勝算もないにもかかわらず、このお誘いをOKしてしまったのである。
しかし、8月最後の2週間を繰り返すことも、人語を操る小動物と契約することも、つまるところ、私の身の上にタイムリープが起こることはなく、あっけなく1年後はやってきた。……えっ、何書けばいいの?
実は、最初に登さんから提案されたテーマは「天皇制に関するブックレビュー」であった。これはおそらく、それまで天皇制についての雑文(としか言いようがないもの)を私がいくつか書いていたからだろうが、1・2回ならともかく、このテーマで1年間もたせる自信はない。あれこれ逡巡した挙句、「天皇制」を削った単なる「ブックレビュー」であれば何とか…と考えたものの、連載である以上は軸になるテーマが必要である。とはいえ、自分が置かれている環境を考えれば研究余滴のようなものしか書けそうにない。そこで捻り出したのが、あまり読まれなくなってしまった戦後憲法学の名著を紹介する、という企画であった。
「戦後憲法学」と聞くと、ある単色のイメージを思い浮かべる向きもおありかもしれない。しかし、当たり前のことではあるが、戦後の憲法学界にはそれぞれに個性的な憲法学者たちが所属し、時の「売れっ子」たちが作り上げる磁場とは離れたところで、篤実に研究を進めていったのである。それらの真摯な業績の中には、今読んでもハッとさせられるものも多く、とりわけ無味乾燥な教科書の記述に飽き飽きしている(かもしれない)学部生・法科大学院生の皆さんに対して、憲法学の魅力を再提示することができるのではないか――大要このような理由に基づき、「忘れられた名著たち――戦後憲法学・再読」を1年間にわたって、連載していきたいと考えている。
したがって、ここでご登場願う多くの方々は、おそらく皆さんが思い浮かべるような「有名人」ばかりではないだろう。もしかすると、読者の皆さんが所属している大学の教壇に立っていた先生も出てくるかもしれない。その際には、ぜひ、自分たちが日々学んでいるこの教室が学問の歴史とつながっていることを実感してもらえればと願っている。